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Los lobos おおかみ君たち

メキシコ映画 (2019)

メキシコから逃げ出して国境に近い中都市アルバカーキで暮らすことになった1人の母親と、2人の幼い息子の送る極貧の生活を淡々と綴った小品。それでも、第70回ベルリン国際映画祭(2020)の国際審査員-Kプラス長編映画グランプリと、平和映画賞を受賞。他にも、フリブール国際映画祭(スイス)の審査委員特別賞、マイアミ国際映画祭のイベロ・アメリカン・コンペティションの最優秀作品など6つの賞を獲得している。この映画の真の主人公は、昼間の工場と、夜間の掃除の両方の仕事を、違法な観光ビザで、つまり、非常に安い給料で働いて何とか暮らしていこうとする母親かもしれないが、映画の中で最も長時間映し出されるのは、信じられないほど汚くおぞましい安アパートに監禁状態で1日中過ごさなくてはならない2人の兄弟(特に、兄のマックス)。台詞は少ないのだが、演技を超えた “自然さ” が素晴らしく、一種のドキュメンタリーを見ているような気にさせられる。この映画の構想は、監督の実体験に基づいているので、当然なのかもしれない。子供達は、母が決めた7つのルールに従い、家具一つない部屋の中で、早朝に出かけ深夜にしか帰ってこない母のいない長い日中を、ひらすら我慢して過ごす。子供達はディズニーランドに行きたくて仕方がない。母は、幾つかの英語を覚える代わりに連れて行くと約束するが、子供達が必死で覚えると、すぐに連れて行くとは言っていないと開き直る。厳しい経済状態では致し方のない対応だが、子供達はそれを嘘とみなし、「嘘はダメ」というルール7を破ったとみなす。マックスは。それなら自分もルールを破る権利はあると思い、「部屋から絶対に出ない」というルール1を破って外に出る。この行為は、いい面と悪い面の両方の効果をもたらすのだが、最後には、悪い面もいい面に変わるところに、観ていて救いがある。

母と2人の子供、マックスとレオは、エル・パソで国境を越え、最初の都市、アルバカーキで住むことになる。3人がなぜメキシコからアメリカに来たのかの背景について、映画はほとんど語ってくれない。その最大の理由は、メキシコ映画なので3人の会話はスペイン語だが、英語字幕しか存在しないためだ。父親がいないのも、「dad went away by light bulb」と表現されているだけ。light bulbの意味は、“電球” だが、それ以外に、Urban Dictionaryでは、①a pregnant woman(妊娠した女性). ②Where one shoots another person. Then proceeds to have sexual intercourse through the new hole in their body. ③When a guy says he has an idea and his penis spits out on her face. ④Something you eat or shove up your ass. ⑤A women with a big clitoris. などの意味があるとされる〔卑猥なものが多いので、①以外は訳さなかった〕。要は、他の女性と性的な関係となり、出て行ったらしい。しかし、子供達は、この言葉を額面通りに受け取って、父は電球によって連れていかれた、と思い込んでいる。父親は、それまで田舎町の警察官だったので平和に暮らしていけたのであろうが、収入減を失った3人は、アメリカに出て運を試すしかなかったのであろう。母は、誰かに教えてもらったアパートの住所に行ってみると、それは、ゴミが散乱し、カーテンは破れ、ベッド1つ置いてないひどい場所だった。しかし、厳しい経済状況からすれば、そこに住むしかない。母は、少しでもお金を多く稼ぐため、日中は工場で、夕方から夜は倉庫で、身を削って働く。幼い子供を住居に放置することを禁ずるアメリカの法律になんかには従っていられない。そこで、7つのルールを決め、そのトップに 「部屋から絶対に出ない」を持ってくる。こうして、マックスとレオは、何もない1部屋の中で、それも、「靴を履かずにカーペットの上を歩かない」とルールで命じられるくらい汚れ切った部屋の中で、朝から晩まで過ごすことになる。これは監禁に近い。それでも2人の兄弟は、自分達を、泣かずに頑張る “忍者おおかみ” だと思って頑張る。そして、何かあれが、“電球” が現われて、父がそうされたように、どこかに救出されると信じている。2人の夢は、ディズニーランドに行くこと。しかし、そこは、アルバカーキの西1000キロにある。現実問題として、行ける環境にはない。母は、エンカレジする意味で、アルファベットや数字、英語のフレーズを暗記すれば連れて行くと約束する〔子供達は英語が全く話せない〕。暇を持て余していた子供達は、熱心に勉強し覚えてしまう。そして、母に連れて行くよう強くせがむが、疲れ切った母は 「今は連れて行けない」と断る。マックスが 「嘘つき」と非難すると、頬を叩く。これで、母は、「嘘はダメ」というルールを自ら破ったことになる。母が、ルールを破れるのなら、自分だって破ってやると考えたマックスは、レオを置いて部屋から外に出る。マックスは、同じアパートに住むケヴィンと知り合うことができたが、レオも外に出てきてしまい、オートロックのドアなので、2人とも締め出されてしまう。それを助けてくれたのは、最初はすごくぶっきらぼうだった、家主の妻。2人を不憫に思い、自室に連れていって食事も与える。しかし、ケヴィンが仲間を連れてマックスの部屋に入って来てあちこちメチャクチャにして去った後、母が、大切に貯めていたお金の入った缶が消えていることが分かり大騒動に。ケヴィンは盗みを否定し、マックスは母から疎外される。しかし、ハロウィーンの日、忍者おおかみのコスチュームを着た2人を、家主の妻が外に出してお菓子ねだりをさせた日の夜、ケヴィンは、自分だとバレないようにお化けのコスチュームをまとい、缶を返してくれる。これで、3人の生活は元に戻る。母は、近くの遊園地に子供達を連れて行き、“母親らしい優しさ” を取り戻すのだった。

マックス役のMaximiliano Nájar Márquezについては、映画初出演という以外、何の情報もない。どうやったら、こんなに自然な演技のできる子供が発見できるのだろう?。

あらすじ

国境の町エル・パソの手前にかかるリオ・グランデ川に架かる橋は、アメリカに入国しようとする車で溢れている(1枚目の写真)。バスに乗って国境を越えた中には、3人の母子もいた。母ルシア、8歳のマックス、5歳のレオだ。3人は、トラホムルコ(Tlajomulco)というメキシコ中西部のハリスコ州の人口3万の田舎町に住んでいたようだが。そこの町の警官だった夫が何らかの理由で失踪し、恐らく生活に困ったため、新天地を求めてアメリカに移り住もうと決めた。母は何とか英語が話せるが、2人の子供は全く話せない。この映画の設定は、監督のSamuel Kishi Leopoの体験に基づいていて、彼は、5歳の時、3歳の弟と一緒に、ディズニーランドに行くと言われて母と3人でアルバカーキに移り住んだ。その時、母は観光ビザ(B-2)しか持っていなかった。映画の母子もアルバカーキ(メキシコ国境の北370キロ)に向かう。バスが着いた先は、高速道路沿いにあるターミナル(2枚目の写真)〔El Paso - Los Angeles Limousine Expressの駐車場〕。まだ早朝なので2人はベンチで疲れて眠っている(3枚目の写真)。

2人は目が覚めると、洗面所に行って歯を磨くが、そこの鏡の一枚には、「GO HOME(帰れ)!」と、メキシコ人を意識した差別用語が彫られている(1枚目の写真)。3人は、そこから市バスに乗り、人づてに聞いた安アパートに向かう(2・3枚目の写真)。アルバカーキは人口約50万人の都市なので、都心からはかなり離れた場所。正面に見える電光掲示板に75℉と示されるので(24℃)、かなり快適な温度だ。

母は、教えられた家をノックする。ドアを開けたアパートの家主は、老齢の中国人で、母が 「チャンさん?」とスペイン語で話しかけても全く通じない。「アパート」の言葉で、趣旨をようやく理解した家主は、中に戻って鍵を取ってくる。そして、部屋を見せ、「幾ら?」の問いに、「500〔5万円強〕と答える。しかし、部屋の中があまりに汚いので、母は 他を当たることにする〔間借り人が退去した後、家主は部屋の掃除くらいしないのだろうか?〕。母は、荷物と、2人の子供と一緒にもっとマシな物件がないかと探し回るが、500ドルで入居させてくれる場所はどこにもない。そこで、仕方なく最初のアパートに戻る。ドアを開けた家主は 「2人の子連れが戻ってきたぞ」と中国語で妻に呼びかける。妻は 「あんたが そんな安値を言うから、戻って来たのよ」と批判。「500ドルが相場だ」。鍵を持って出てきた家主の妻は 「アパート?」と英語で聞く。母が頷いたので、再度部屋まで連れて行く(1枚目の写真)。1DKの部屋だ。入ったところが寝る場所で、カーテンは壊れているし、キッチンは、前の間借り人が残したゴミで汚れ放題(2枚目の写真)。寝室にはベッドなど置いてなく、汚い床にマットレスが置いてあるだけ(3枚目の写真)。おぞましい場所だ。

家主の妻はすぐに現金を要求する。母は、ポテトチップの小型缶〔貯金箱代わり〕を取り出すと(1枚目の写真)、そこから お札を取り出す。お金を受け取ると、家主の妻は 「OK」と言い、さっさと出て行く。母が 「ありがとう」と言っても、バタンとドアを閉めただけ。母は、まずキッチンのゴミの片付けから始める。大量の汚いゴミだ。普通に暮らしていれば、これだけゴミが散乱することはないので、余程 “汚いもの好き” が暮らしていたのだろう。それが済むと、バスタブと便器の掃除。ゴシゴシこすらないと、汚くてとても使えない。そして、子供達も手伝って、屋外の大型のゴミ入れにすべてを捨てる。兄のマックスは、鞄の中に詰めてきたオモチャ〔数少なくて安っぽい〕を床に置く。弟のレオが 「どこに寝るの?」と訊く。マックス:「床だ、脳たりん」(2枚目の写真)。母は 「毛布でベッドを作りましょ」と言う。「ベッドじゃないよ」。母は、すごく古いカセットデッキを取り出し、「おじいちゃん、聞きたくない?」と言い、スイッチを押す。すると、カセットに収録された下手なギターが聞こえてくる。そのうちに、くたびれて2人は毛布の上で寝てしまい、2日目の朝が来る(3枚目の写真)。

母は、マックスを起こし 「行かないと」と言う。「どこへ?」。「仕事」。「一緒に行くよ」。「ここで待ってなさい。働いてお金を稼がないと 生きていけないの」(1枚目の写真)。そして、「いくつかルールを決めましょ」と言い、カセットデッキに向かって話しながら、ルールを録音する。「ルール1: 部屋から絶対に出ない」(2枚目の写真)。「火事になったら?」。「その時は、部屋から出ていいわ。ルール2: 靴を履かずにカーペットの上を歩かない〔そのくらいカーペットが汚い〕。ルール3: 部屋の中はきれいに、そして、ちらかさない。ルール4(マックスに): 弟の世話をする。ルール5: ケンカをしても最後はハグで。中指は立てない。ルール6(レオに): 泣かない。ルール7: 嘘はダメ」。母は、ここで録音を止める。そして 「7時には戻ってくるわ」と言った後で、「マックス、あなたには責任があるの。分かってる?」と訊く。「うん」(3枚目の写真)。

その後は、最初の留守番の様子。大して遊ぶものもないので、マックスは、弟に部屋の中をくるくる走らせ、聴診器で胸の音を聞く(1枚目の写真)。その後は、丸めた小さな紙でサッカーの真似事。レオの運動靴の紐がほどける度に、マックスが締め直してやる〔レオにはまだ結べない〕。床に置いた小さな置時計が11時30分になったので、2人で1個のリンゴを齧る(2枚目の写真)。他には食べるシーンがないので、これが昼食なのかも。壁が薄いので、隣の部屋でお金のことで言い合う2人の男の声が聞こえてくる。英語なので、マックスたちに意味は分からない。だから、口論の真似事をして遊ぶ。こうして、時間は空虚に過ぎ、母が帰宅する。母が2人に食べさせたのは、苺ジャムを塗った食パン(3枚目の写真)。どうみても、健康上いいとは言えない食事だ。母が 「遊んだの?」と尋ねると、レオが 「いっぱい走って、サッカーもした」と答える〔確かに、嘘ではない〕。因みに、以前紹介した『Lemonade(レモネード/ルーマニア移民の母の散々な日々)』(2018)では、①子供が7歳以下の場合は、どんな短時間でも、それが自宅であっても、放置することは厳禁、②8-10歳では、日中もしくは早い夕方に限り1時間半までならOKで、それに違反した場合には「児童放棄」とみなされる、というのがアメリカの法律だった。母ルシアは、朝から夕方まで8歳と6歳の子供を部屋に缶詰めにして仕事に出かけたが、これは完全な児童放棄。みつかったら罪になるが、警察はここまで来ないのだろう。

いよいよ、映画の題名にもなっている “おおかみ”。元々、最初に狼という表現を使ったのは、母が最初に仕事に出かける時、「さよならのキスして」と2人に言って、2人が重なり合うように抱きついてキスした時。母が 「私たちいったい何?」と訊き、子供達が「おおかみ」と答えたのが始まり。母が出かけて2日目。2人は色鉛筆を使って、壁に “忍者おおかみ” の絵を描く。マックスは、強いおおかみになろうと、弟を背中に座らせて腕立て伏せをする(1枚目の写真)。そして、おおかみの絵の前で、強がってみせる(2枚目の写真)〔ケンカは禁止されているので しない〕。この “おおかみ” は、動画として映画の中で時々登場する。その1例が3枚目の写真。右がマックス、左がレオ。

マックスは、失踪した父の警察手帳(身分証)を大切に持っている(1枚目の写真)。マックスはレオに説明する。「ぼく、ほとんど何も知らないんだ」(2枚目の写真)「ママがお隣の人に、パパは 電球が持ってった〔“他の女性を身ごもらせ、家から出て行った” というような意味の俗語〕って話してるの聞いた」。「電球が? どうやって?」。「知らない。ママに訊いたら、怒って黙っちゃった」。2人は天井についている裸電球を見つめる。夜遅くなっても母は帰ってこない。マックスは、心配してひたすら待っている。レオは横で泣いている。ようやくドアが開き、母が帰ってくる。マックスは、レオに 「泣くな、弱虫」と言うが、レオは走っていき母に抱きつく。マックスは 「7時までに帰るって言ったじゃない」と責める〔何も食べさせてもらえない〕。「間に合わなかったの」。そして、逆に、壁に描いた絵のことで叱る。「ルール3は何だった?!」。マックスは 「部屋の中はきれいに、そして、ちらかさない」と答える。「そんなもの描いて?」。「汚くないよ」。「言い逃れようなんてダメよ」。母は、バッグから、お絵描き用の広告用紙と、ジャガイモのスナック菓子の袋を出す。遅くなった夕食がスナック菓子とはひどいものだ。

翌日、マックスが窓からアパートの中庭を見ていると(1枚目の写真)〔アパートは ⨅ の形〕、3人の同じ年頃の男の子達〔アパートの住民〕がボールを蹴って遊んでいる。2人が ガラス窓越しに大きな声を出すと、3人が気付き、「来いよ!」と声をかける(2枚目の写真)〔スペイン語で〕。ここから先は、映画では 次の節の直後のシーンだが、関連があるのでここに入れる。窓を昨日の3人がノックする。カーテンを一部開け、マックスが顔を見せると、1人が 「遊ぼうぜ」、もう1人が 「フットボールやらないか?」と、ブロークンな英語で誘う(3枚目の写真)。意味は分からないが、意図を悟ったマックスは 「できない」と答える。「それ、どういう意味だ?」。「ママに叱られる」。「気にするな、来いよ」。「弟の世話をしなくちゃいけない」。3人はあきらめて去って行く。

翌朝、レオが 「ディズニーランドに連れてってくれるよね?」と母に訊くと、「そのためには、まずお金を貯めないと」という返事。マックスは 「いつ、行けるの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「じゃあ こうしましょ。頑張ったら連れていってあげる。英語で アルファベット、 1から20までの数字、それに、『We want to go Disney. One ticket please.』が 言えるようになること」。母は、それらの英語をカセットデッキに吹き込み、マックスに渡して練習するように言う(2枚目の写真)。母が仕事に出かけた後、2人は床に寝転がって、英語をくり返し覚えようと努力する(3枚目の写真)。

夜、帰って来た母に、マックスは 「ぼくたち、いつ学校に行くの?」と質問する(1枚目の写真)。母は 「すぐよ。まず、至急やるべきことをしないと」と答える〔母は、仕事を2つ掛け持ちしている。こんな状態で子供を学校にやることはできない〕。マックスが、もう少し訊きたくて 「ママ」と言うと、「もう寝なさい」。「ぼく、どうしてチビなの?」。「私に似たからよ」。「レオは、パパに似たの?」。「2人とも、父さんには似てないわ」〔母は、3人をこんな目に遭わせた夫を嫌っている〕。場面は変わり、マックスが寝た後、母はバスタブで下着の洗濯をする〔どこに干すのだろう?〕。そして画面はそのまま翌日の母の仕事場に移る。そこは、大量の白い布を大型のローラーに入れてシワを伸ばす工場。母のように安い給料で働かさせている女性が、ローラーの前に並んで単調な作業を続けている(2枚目の写真)。朝日が顔に当たって目を覚ましたマックスは 「ママ」と呼ぶが(3枚目の写真)、母はとっくに工場で働いている。

マックスが、起きて行くと、ドアの前のテーブルの上に簡単な朝食と手紙が置いてある(1枚目の写真)。缶詰状態で一日中放置される生活に嫌気がさしたマックスは、禁じられたドアを開けて外を見てみる(2枚目の写真)。そして、足を一歩廊下に踏み出してみるが(3枚目の写真)、母との約束を思い出し、足を引っ込めて ドアを閉める。

弟が起きてきて、2人で床に横になる。母が、カセットデッキに吹き込んだ言葉が聞こえる。「あなたちは、強いおおかみよ。おおかみは泣かない。おおかみは遠吠えして、すみかを守るの」。その間、マックスは、天井の裸電球をじっと見ている(1枚目の写真)。“電球がどうやってパパを持って行ったのだろう?” と考えていたに違いない。ここで、おおかみの動画が流れる。レオとマックスのおおかみが逃げて行き、後ろから火を噴く恐竜や怪物が追いかけてくる。崖の先端に追い詰められた2人のおおかみ。レオが雲に向かって手を伸ばすが届かない。マックスおおかみが、「電球を使おう。でないと殺される」と言いって、電球を上に向かって投げる。すると、電球は2人の上で光り始める(2枚目の写真)。レオは  「電球で逃げよう」と言って手を伸ばすと 電球に吸い込まれる。マックスも、電球に吸い込まれ、雲の上に出現した別の電球から吐き出され、雲の上に逃げることができた。恐竜や怪物は崖の端まで来るが、雲の上には来られないので 2人のおおかみは助かった。「パパは電球が持って行った」という言葉からの連想だ(3枚目の写真)。

翌朝、母が調理台の掃除をしている。マックスが 「何時に戻ってくるの?」と訊くと(1枚目の写真)、「遅くなるわ。もう1つの仕事の場所が かなり遠いから」と答える。それを聞いたマックスは 「なぜ、家に帰らないの?」と、メキシコに帰りたいと言い出すが、母は何も答えず、調理台をゴシゴシと磨くだけ。母が出かけて、マックスが窓から見ていると、犬を連れた家主の妻が2人を見つけ、「やあ」と手を振ってくれる。2人も手を振って答える。それで気に入られたのか、しばらくするとドアがノックされる。マックスが窓から見て、家主の妻だと分かると、ドアを開ける。彼女は 「お腹空いた? これ2人に。おいしい。OK」と、たどたどしい英語で言うと、中華饅頭を2つ渡す。「これ、食べる、よろし」(2枚目の写真)。ロクな物しか食べさせてもらっていない2人にとってはご馳走だが、初めて食べるものなので、恐る恐る口にする。レオが  「パンの味がする」と言うので(3枚目の写真)、皮を食べただけなのだろう〔肉マンなのだろうか?〕

その後、テープが再生され、母の父がアルツハイマーで、かつ、暴力的。母が如何に苦労したかが分かる内容だが、それを2人の息子に聞かせたとは思えない。次のシーンでは、ディズニーランドに行きたい兄弟が、必死で英語を覚えようと努力している。覚え終わったと確信した2人は、疲れて寝ている母を起こし、「言われたこと、覚えたよ」と言い、覚えた英語を連ねてみせる。しかし、母は、何も言わずに横になったまま(1枚目の写真)。そこで、「1,2,3,4,5」と大きな声でくり返す。母が 「しーっ」と言うので、聞こえてはいるが、眠りたいのだ。しかし、子供達はあきらめない。今度は 「We want to go Disney」と大きな声でくり返す。それが10回近く続いたあと、母は大声で 「ストップ!」と怒り、「ディズニーはここから12時間も先なの。それ分かってる? すごく遠いの。今は連れて行けない」と剣もほろろ。しかし、マックスは反論する。「だけど、約束したよ」(2枚目の写真)。母は 「今すぐ連れて行くとは言ってない。絶対よ。今日は日曜。このあと、仕事に行かないと。分かった? だから、眠らせて」と、強い調子で言う。しかし、2人は 「We want to go Disney」を、前より大きな声でくり返す。母は頭から毛布をかぶる。しかし、マックスが 「嘘つき」と言うと、急に身を起こし、「今、何て言った」と強く訊く。マックスは黙ってしまう。「今、ママを何て呼んだ?」。「パパが電球に持ってかれたのはママのせいだ」〔母は 「パパが、他の女性と浮気したのはママのせいだ」と言われたと思った〕。母は、言葉が終わるかと同時に、マックスの頬を強くぶつ(3枚目の写真)〔本当に叩いている〕

そして、母は何も言わずに立ち上がると、浴室に籠ってしまう(1枚目の写真、矢印)。しばらくして困ったのがトイレ。母が閉じこもっていて、水洗便所が使えない。そこで、キッチンのシンクの前にイスを置き、その上に立って放尿せざるを得なくなる(2枚目の写真、矢印)。2人が床で寝ていると〔実に不健康な生活〕、母が午後の仕事に出かけて行く(3枚目の写真)。母が出て行った後で、マックスは、「ルール7」とつぶやく。母が作ったルール7(嘘はダメ)を、自ら破ったことを咎める言葉だ。

母が、ルールを破ったことをじっと考えていたマックスは(1枚目の写真)、自分も破ってもいいと考えるに至る。そして、レオに 「ぼくは外に出る。ちゃんとここにいろ」と声をかけ、ドアを開ける。レオは 「ママに叱られるよ」と反対するが、マックスは 「ママがルールを破ったんだ」と言い(2枚目の写真)、本当に出て行ってしまう。マックスは、アパートの2階の長い外廊下を歩き、端にある階段から内庭に降りる〔部屋の中はあんなに汚いのに、外観はきれい〕。辺りを見回すが誰もいない。木に登ろうとしたり、缶を蹴ったりするが、1人でやってもつまらない。内庭から外に出ようとすると、駐車場には怖そうな男たちがたむろしていたので、アパートの裏の壁沿いに歩いていると。いつかの子供達の声が聞こえてくる。マックスが行ってみると、そこでは、例の3人組が放置してあるゴミを叩き壊して遊んでいた。マックスの姿を見て遊ぶのをやめた3人。うち1人が 「出してもらえたのか?」と訊く。マックスは、それには答えず、「一緒にやっていい?」と訊く。3人は目で相談しOKする。マックスは、さっそく落ちていたビンを拾い(3枚目の写真)、ブロック塀に向かって投げつける。そして、他の3人の真似をして、そこら辺のものを徹底的に破壊する。

残されたレオは1人でおとなしく遊んでいたが、隣の部屋で男女が激しく愛し合う声が聞こえてくる。耐えられなくなったレオは、後先を考えずに逃げ出す。その時、祖父の大事なカセットテープを踏んでしまう(1枚目の写真、矢印)。そして、ドアが自動ロックになっていることに気付かず、外に出てしまう。中庭に行ったレオは、芝生の中にいる小さな虫で遊ぶ。戻ってきたマックスは、レオが外に出ていることに気付き(2枚目の写真)、走り寄って、「こんなトコで何してる?」と訊く。「隣の怪物が女の人を食べてた」。マックスは、レオを連れて部屋のドアまで戻るが、当然開かない。窓も開かないので、入る手立てがない。マックスは 「ママが帰ったら、お前が怒られるんだぞ」と言うが、レオも 「違うよ。先に出たのは兄ちゃんだ」と負けてはいない。結局、ドアの前で並んで待つことに(3枚目の写真)。

その時、内庭から、「おい!」と呼ぶ声が聞こえる。2人が下を見ると、そこにいたのは家主の妻。「なんで、そこ、いる?」「ママ、どこ?」。マックスは、「ぼくたち、締め出されちゃった」と説明するが、スペイン語は通じない。しかし、状況から判断して、彼女は 「中に入れない?」と訊く。子供達に英語は通じない。だが、彼女は 「鍵、持ってる」と仕草で示す。「心配するない」。そして、荷物を見せて、「まず、食料品 持つの、手伝う」と言い、通じないので、「ほら来て」と手で合図。2人は、家主の部屋に入る。大福神の前に蓮の花の照明灯が2基置いてある。2人はソファに座らされ(1枚目の写真)、すぐ隣のキッチンでは、家主の妻が中華両手鍋で野菜を炒めている。そのうち、レオが立ち上がり、奥の部屋で、家主が壁に描かれた木の絵に何かを書き込んでいるのを見に行く。マックスも後を追う。レオは 「これ何?」と訊くが、アメリカに移住しても英語も話せない家主が、スペイン語が分かる訳がない。それでも、なぜか通じて、家主は 「作業療法〔様々な心身機能低下の改善や回復、維持を図りためのセラピー〕で やらされてる」と中国語で答え、英語で 「occupational therapy」と、訥々と付け加える。どのみち、2人には皆目分からない。壁に描かれた木は、家主の家系図で、ギャングになった息子のところには、空白の紙が貼ってある。家主はそれを説明するのだが、2人にはチンプンカンプン。その時、家主の妻が 「夕飯、できた」とやってくる(2枚目の写真)。「まだ、薬飲んでないでしょ?」。「飲めば飲むほど病気になる」。「ちゃんと飲まないからよ。飲むまで許しませんよ」。「飲もうが飲むまいが、どうせ死ぬんだ」。「勝手にすれば」。そう言うと、彼女は2人を食堂に案内する。その時、彼女は、マックスに 「セッパ」と言わせるのだが、これが英語なのか中国語なのかも分からない。夕食が終わり、暗くなりかけた頃、彼女は合鍵でドアを開け、2人を部屋に入れてやる。そして、あまりに殺風景な室内に驚いた後、「バイバイ」と言って出て行く。彼女が2人を気に入ったことは間違いない。

母が帰った後、2人はドアの外に出たことは黙っていたが、レオは、自分が踏んで壊したカセットを見せ、「おじいちゃんを殺しちゃった」と謝る。そして、翌日、ドアがまたノックされる。マックスがドアを開けると、3人組と、それより年長の男女がどやどやと入って来る(1枚目の写真)。「友だちを紹介したい」と最初にスペイン語で言ったあとは、闖入者の会話はすべて聴き取りにくい変な英語。彼らは、お粗末で、変な臭いのする部屋をあざけり、あちこちの扉を開けて物色し、母のパンティを頭にかぶり、奪おうとしたマックスに(2枚目の写真)、「もっとセクシーなのを買えって言っとけよ」と言う。ロクデナシどもは、結局、女性にメールが入ったことで、全員が引き揚げていった。その様子を例の漫画で表示したのが3枚目の写真。おおかみ兄弟は、悪い奴らに囲まれて、なすすべがない。全員がいなくなったあと、マックスはレオに 「このことは、ママに内緒だぞ」と念を押す。

夜 帰ってきた母がバスタブ内で寝て、翌朝早朝出かける用意をしていると、あるべきものがない! そこで、寝ている2人は叩き起こされ、母から強く訊かれる。「ポテトチップの缶はどこ?!」(1枚目の写真)。母からすれば、缶には、苦労して働いた全財産が入っているので、深刻な事態だ。2人が黙っているので、同じ質問を繰り返す。2人は、“ただのポテトチップになぜ?” と思っているようなので、母は 「全財産が入ってるのよ!」と、問題の大きさを指摘する。「昨日までそこにあったのに、どこにもない! どこなの?!」。2人は まだ黙っている。「答えなさい!」。それでも返事がないので、母は自分の靴を脱いで手に持つと 「一発お見舞いする?!」と言って床を叩く。返事がない。「それとも2発?!」。遂にレオが、「お兄ちゃんの友だちだ!」と白状する。「友だちって何なのよ!」。場面は、母に 引きずられるように連れて行かれたマックスが、同じアパートの1階に住む “友達” の部屋を指差すところまで飛ぶ(2枚目の写真)。母は、その部屋のドアを力任せにドンドン叩き、出てきた女性に 「スペイン語話す?」と断った上で、「あんたの息子が、全財産の入ったポテトチップの缶を奪った」と文句を言う。「息子?」。「ケヴィンよ」。「ケヴィンは息子じゃなく甥よ」。そう言うと、マックスにむかって 「なんで彼だと分かるの?」と訊き、母がそれをスペイン語に訳す。母:「答えなさい!」。マックス:「レオが見た」。相手の女性は 「あんた、缶にお金入れてたの?」とあきれるが、室内に向かって、「ケヴィン、来なさい!」と命じる。そして、ケヴィンが出てくると、「この女性は、あんたが家のお金を盗ったと言ってるよ!」と激しく問責する(3枚目の写真)。ケヴィンは黙っている〔こんな状態で、盗んだと言おうものなら、恐ろしい目に遭う〕。「やったの、やらなかったの?! 何とか言いなさい! どうなのよ?! お言い!」。ケヴィン:「No」。その言葉を聞いて、マックスが 「返せ」と飛びかかる。しかし、女性は、それ以上の問答は無用と判断し、「失せな。二度と来るんじゃないよ!」と言って、ドアをバタンと閉める。

部屋に戻った母は、2人に向かって 「大急ぎ。すぐ服を着なさい。一緒に連れていくから」と命じる。3人はバスに乗るが、“悪者” 扱いされたマックスは、一人離れた席に座る(1枚目の写真)。職場に着くと、女性の職長から 「ここは保育所じゃない。もう一度やったら、クビだからね!」と叱られる(2枚目の写真)。待っている間、2人はおとなしくイスに座り、2人とも 忍者おおかみの絵を描いている。レオは 「お兄ちゃん、忍者おおかみで遊ばない?」と声をかけるが、すべてが自分の責任だと思っているマックスは、暗い顔で弟を見るだけで何も言わない(3枚目の写真)。

洗濯物乾燥(?)の仕事が終わると、母子は、バスで次の仕事先に移動する(1枚目の写真)。バスの車内では、疲れた母がうつらうつらしている。2つ目の仕事内容がここで初めて明らかになる。床をモップで掃除する係だ。ここでも職場に子供を連れて来たことを強く叱られる。それでも、子供だけ帰す訳にはいかないので、持参した夕食は労働者の食堂で一緒に食べさせてもらえる(2枚目の写真)。その後、母は、掃除道具を押して倉庫内を歩くが、そのシーンがあまりに印象的なので、3枚目に掲載する。国旗があるからではなく、その巨大さに圧倒されたため。3人の帰りのバスは、深夜の郊外をひた走る。これでは、母がいつも疲れているハズだ。

翌日、母は手元にあるお金を数えている。すべてコインで、お札はない。子供達が食べるものもなくなってしまう。母は、床に落ちていた紙の1枚に目を留める(1枚目の写真)。そこには、スペイン語で、「食糧供給、一時宿泊、社会復帰の支援を行います」と書かれていた。その中で使われている「Banco de Alimentos(フード・バンク)」という言葉は、困窮者に食料援助を行うNPO団体に食料を配給する民間の組織のこと。母はさっそく2人の子供を連れて、アルバカーキ・リバイバル教会に向かう(2枚目の写真)。中では2つのグループに分けられ、子供達は、1980年代にニカラグアの内戦の時、ハラパ(Jalapa)で宣教師が巻き込まれた話を聞かされる。一方、大人の方は、もっと直接的な牧師の訓話。それが終わると、いよいよ食料の配布。長い台の上にはずらりと各種の食料が並べられ、参加者は、それらを持参したダンボールの中に次々と入れて行く。レオは積極的に食べ物を取っては、母の持つダンボールに入れる(3枚目の写真)。少し離れた場所では、ポテトチップ缶を盗んだケヴィンもいたが、マックスと目が合うと辛そうな顔になる。家に戻った母は、ダンボール一杯の食料品を分類する。これで、当面の食料は確保できた。

ハロウィーンの日〔10月31日〕。窓から見ていて、子供達が仮装しているのを見たマックスは、上半身裸になると、レオに手伝ってもらって忍者のように布で頭を覆う。それが完成すると、今度は、レオの頭をカラーシャツで覆う(1枚目の写真)。そして、2人で忍者ごっこをして遊んでいると、悪ガキ2人が窓に何かをぶつけて汚す。内庭にいて、それを見た家主の妻は、怒鳴って追い払う。そして、2人の部屋まで来ると、「ハロウィーンに行きたい?」と訊く。マックスが頷くと、彼女は 「まず、掃除」と道具を渡し、汚された窓をきれいにさせる。それが終わると、2人を連れて、お菓子をもらいに出かける(2枚目の写真)。家主の妻が一緒なので、もらえるお菓子も何となく多いような…(3枚目の写真)。2人にとっては楽しい経験だし、彼女もすごく親切だ。2人が渡したビニール袋はお菓子でいっぱいになる。

その夜、マックスがまだ起きていると、母が帰ってくる。母は 「マックス、まだ起きてるの? その恰好は何?」と声をかける。「忍者。ママ用のもあるよ」(1枚目の写真)。そう言うと、緑の布を渡す。母は、マックスに手伝ってもらって頭を覆う。向き合ったまま、じっと見つめ合う2人。やがて、マックスは母に抱きつく。この最高のタイミングで、ドアがノックされる。2人がドアを開けて見まわしても、ドアの近くには誰もいない。しかし、階段を降りた所に、お化けのように真っ白な布を全身で覆った子供が立ってこちらを見ている(2枚目の写真)。母が、ドアの下にポテトチップの缶が置いてあるのに気付いて取り上げる(3枚目の写真、矢印)。すると、お化けは走って姿を消す。ケヴィンが、自分だとは知られたくないので、このような形で缶を返してくれたのだ。

3人が部屋を出て内庭を歩いていると、正面から家主と妻がやってくる。それを見たレオは、走っていって妻に抱きつく。2人が可愛がられていて、2人もそれを嬉しがっていることがよく分かる。その後、乗ったバスの中で、母は 「午後は、チャンさんと一緒にいたい?」と訊き(1枚目の写真)、2人は頷く。これで、お金は戻ったし、“置いてけぼり” の子供たちの心配もしなくて済む。母が2人を連れて行ったのは、ディズニーランドではなく、市内の小さな遊園地(2枚目の写真)。母は 「ディスニーじゃないけど」と言う。でも、ディズニーの何たるかを知らないマックスにとって、楽しそうな場所であることに変わりはないので、ニッコリする(3枚目の写真)。

マックスは、率先して走り出す(1枚目の写真)。そこでは、簡単なゲームを楽しめるが、2人にとってはそれでも十分に面白い。各種のライドに、母と一緒に乗ったり、兄弟2人だけで乗って十分に “遊園地の楽しさ” を満喫する(2枚目の写真)。りんご飴も食べさせてもらう(3枚目の写真)。薄幸の少年たちだが、これから何とかなるのではないかと期待を持たせて 映画は終わる。

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